居庸関
婚礼の行進
兵馬俑幻想
草原を求めて
遊牧の道
万里の長城
画伯は、長年にわたってシルクロードや中央アジアの大自然
そこに暮らす人々を描き続けました。これらの絵を前にすると
あの乾燥した大地の真っ只中にいて、興亡を繰り返してきた歴
史の中にいるような錯覚に陥ります。栄枯盛衰の思いに胸を打
たれ、その感動を絵にした画伯の作品を通して、遠く遥かなる
シルクロードを個々の心の中で旅してください。また、民族衣
装を身にまとった人々などの人物素描画や、長良川流域を始め
とする日本各地の美しい風景画も数多く描きました。200点の
所蔵作品のうち100点がシルクロード作品です。
画伯のスケッチ旅行には、必ず奥様が同行されました。仲睦
まじいご夫妻であり、奥様の温かな眼差しと支えは作品にも大
きく反映されています。そして何よりも、画伯の心豊かな温か
いお人柄が、より一層心を魅了して、作品に感動を覚えずには
いられないのです。
北京を発った京包線の列車は山間を喘ぎながら進んでいた。
やがて"天下十塞あり居庸はその一になり"と謂われた居庸関が
左手に遠く見える。
ここはシルクロードを経て西北から北京に入る関所で大理石
のそのアーチの内部に刻まれた、蒙・漢・西蔵・西夏・梵・ウ
イグルという六種の文字に、ここが交通の要衝だった往時が偲
ばれるという。 更に八連嶺を過ぎてデッキに立つと9月初めだ
というのに肌寒く、線路脇で鳴く、虫の音が列車に沿って何処
までも聞こえていたのを思い出す。此処はもうだいぶ高地なの
だ。それは昭和14年来長く住んでいた北京から私の初めての内
蒙古方面への長旅で昭和16年の初秋の事です。
先ず途中河北省の張家口に泊まり翌朝そこから内蒙を経て外
蒙へ出る大境門外の広い河原に展開されていた光景が今でも忘
れられません。それは対岸に峨峨たる山を負う絶壁の下におび
ただしい隊商と駱駝・羊などの群と、そのざわめきで、聞けば
此処は古くからの中央アジアやシベリア、蒙古一体にわたる「
蒙古路」とかの一部でシルクロードにも通じ、毛皮その他の物
々交換が行われるのだという。
初めて見るこの原始交易そのままの壮絶な情景に圧倒されて
私は、そこに連なる隊商の道シルクロードを、その時強い感動
をもって思い描いたものです。
もう一つの別の感動は、その旅で更に西に進み大同雲崗で荒
廃した石仏群の前に立った時でした。
誰もがそうである様に青春時代に過ごした環境とその時に受
けた感銘が私の一生をも支配し続ける事になったようです。
1990年 秋 三浦勝治素描画集シルクロード懐古より